明日からまた抗がん剤を打つために入院だ。
あれ?前回で終わりではなかったの?

お医者様の言うことにゃ「効果がなければ治療をやめるので…もにょもにょ」
ってことなので、治療効果が現れているらしい。
大丈夫。泣かないで。まだ時間はあるのですよ。

私には、あなたに伝えたいことがある。

……………………

昨日、前の会社の社長に会いに行ってきた。
前回会ったのは5月の中旬だった。
その前に会ったのは去年の夏か秋だった。

5月に行く前、電話をした。「伺いたいんですが、いらっしゃいますか?」

事務所のドアをノックして開けると、
「久しぶり。どうしたぁ。ビックリしたよ」と声をかけられた。
「社長。もっとビックリすると思うけど、がんになりましたぁ~」
「エェ~ッ!」社長がプチパニックになった。
「こちる君は俺の葬式に出てくれると思っていたのに、順番が違う!」

驚かせてごめんなさい。

でもね、そんなに嘆かなくてもいいんですよ。
悪態をつきながら定年まで働いて、会社が廃業するのを見届けられたんですよ。
ものすごい勢いで働いて、安い給料でマンション買って住む場所を確保できたし
亡くなった会長にはかわいがって貰ったし、社長には感謝されて
今となったら、充実して楽しかったと思うことが沢山あるんですよ。

今の私には、欲しいものも行きたい場所も無い。
子供や孫とかって自分とこの世界をつなげる者もいない。
びっくりするぐらい安定した何の不足も不満もない状態。
これはとても幸せなことだと思うんですよ。

もう、私に心残りはないんですよ。
悲しまないでくださいね。

前回も今回も同じような話をして帰ってきた。

「治療の効果が出てる間は死なないから、私の余命なんて出せないと思いますよ」
占いと同じくらい当てにならないモノなのさっ。なあんてね(^0^)

……………………

私は幸せなのだ。

以前は眉間に皺を寄せて話していたことを、今は笑いながら話せるようになった。
人生を遡れば、まだ心がワナワナすることがあるのは当然のことだけど
もう、この老眼で見るような過去に、無理して焦点を合わせる必要はないと思う。

がんになっても幸せなのか?
生きる時間が少なくても幸せなのか?
そう問われても、私は『幸せです』とはっきり答えられる。

この幸せの中には、小さな小さな巡り合わせも含まれている。

忘れないから覚えていてね。
顔も知らない泣き虫の友人が、私の幸せのすみっこに居てくれてることを。




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