水やりをしていて、最後に声をかけてきた女性がとても話し好きだった。

「あら~、街路樹の根元に花壇があったのね。今まで気づかなかったわ。」
「こんなふうに、お世話するのも大変ね。」

から始まって、いつしか銀行の話へ。

「こちら地方には支店が一つしかないので、いつも記帳するのに街に行くの。
 今、その帰りなんだけど、花壇の手入れをしている人を初めて見たわー。」

てのは、いいのだが、その女性は銀行名を言いたいらしい。
『三菱東京UFJ』とか『みずほ』と助け船を出してみがが、それではないらしい。

私にはどうでもいいことなんだけど、その人はどうしても言いたいらしい。
だが、思い出せないご様子。

で、おもむろにバッグの口を開けるとゴソゴソと…
「ああ、これだわ。」って、引っぱりだされた通帳…
「三井住友銀行ね。」って…

お、驚いたわー。
「こんな所で、大切なものを出しちゃダメですよぉ~」と思わず言っちゃいましたよ。

初対面だし。道端だし。人通りはあるし。
世の中物騒だし。

…………………

そのあと、どれくらいだろう。かなりの時間、他愛のないおしゃべりをした。
銀行の合併が多すぎて、名前を覚えられないわね。とか
生活費の他に予備費の口座がある。とか、曜日はゴミの日で思い出すとか。

私よりかなり年上。
身だしなみも、言葉遣いもとても品が良くて、育ちのよさがにじみ出ていた。
ちょっと不用心だが、ボケているふうでもない。

「また、会えるといいわね。」そう言って、その女性は軽やかな足取りで信号を渡っていった。

…………………

事務所に戻ると、社長が「知り合い?」と聞いてきた。

まあね、街路樹の下で長いこと話しをしていたから、そう思われても仕方ない。

…………………

初対面で長話をしたけど、その女性がどこの誰なのか知らない。
どんな人なのか、分かろうはずもない。

でもね、多分、話し相手が欲しかったんだろな・・・

それだけは、分かった。



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